間々田 佳子

「食事中にむせてしまう」「飲み物が気管に入って咳き込む」——そんな経験をしたことはありませんか?
これは誤飲(ごいん)や誤嚥(ごえん)と呼ばれる現象です。

まず最初にお伝えしておきたいのは、私は医学的な診断や治療を行う立場ではありません。ここでお話しするのは、あくまでも表情筋研究家としての視点から見た「顔や口の筋肉と誤飲・誤嚥の関係」についてです。

医学的な病気や障害が原因となるケースももちろんありますので、不安がある方は必ず医師に相談してください。そのうえで、日常的にできるセルフケアとして「口周りの筋肉を意識すること」が、予防や改善の一助になるということをお伝えしていきたいと思います。

誤飲・誤嚥とは?

誤飲(ごいん)

食べ物や飲み物が誤って気管に入り込むこと。

誤嚥(ごえん)

飲み込むべきものが気管に入ってしまい、肺にまで到達すること。

どちらも「飲み込みの失敗」ですが、特に誤嚥は肺炎などを引き起こすリスクがあり、高齢者にとって大きな問題とされています。

ただし、高齢者だけの問題ではありません。若い世代でも、筋肉の使い方や日常習慣によって誤飲・誤嚥を起こしやすい状態になることがあるのです。

誤飲・誤嚥はなぜ起きるのか?

誤飲・誤嚥の大きな原因は、飲み込みに関わる筋肉の機能低下です。普段は無意識にできている「飲み込む」という動作は、実は口から喉にかけての複数の筋肉が連動して行う、とても繊細な運動です。その中でも特に大切なのが「口輪筋」と「舌筋」です。

1. 口輪筋の弱まり

口の周囲をぐるりと取り囲むドーナツ状の筋肉が「口輪筋」です。唇を閉じる・すぼめる・突き出すといった動作を担い、食べ物や飲み物を口の中に保持する「ふた」の役割を果たしています。

解剖学的に見ると、口輪筋は複数の筋肉が集合して形成されており、上唇・下唇それぞれの部分で働きが少し異なります。この筋肉がしっかり機能していると、唇の密閉性が高まり、外にこぼれることなく安全に食べ物を喉へ送る準備ができます。

しかし、口輪筋が弱ってしまうと唇が閉じにくくなり、口から食べ物や飲み物が漏れたり、正しい位置に保持できなくなります。その結果、気管側へ流れ込みやすくなり、誤飲・誤嚥のリスクが高まるのです。

2. 舌筋の衰え

舌は飲み込み動作の主役です。舌全体を動かす筋肉群を「舌筋」と呼び、これには舌の形を変える内舌筋と、舌全体を前後左右に動かす外舌筋があります。

飲み込みの際には、舌の先端から奥にかけての波のような動きで、食べ物を喉の奥へと押し出します。この「舌で押し出す力」が弱くなると、食べ物が口の中に残ったり、気管の方へ流れ込みやすくなります。特に、舌を後方へしっかり送る力(舌根の動き)が低下すると、誤嚥が起きやすくなるのです。

3. 咽頭や喉頭周りの筋肉の緊張不足

実際の嚥下は咽頭や喉頭の筋肉が複雑に関与するため、ここは医学的な領域となります。ただ、表情筋研究家として言えるのは「顔や首の筋肉と喉の動きはつながっている」ということです。顔や口周りの筋肉がこわばっていたり使われていないと、その連動性が落ち、結果として喉の反射や閉鎖機能も鈍くなりやすいのです。

誤飲・誤嚥が起きやすい人の特徴

ここでは、病気に限らず「日常生活の習慣」に焦点を当てて解説します。

1.ぽかん口の人

口がいつも開いていると口輪筋が使われず弱くなります。食べ物を保持する力も落ち、誤飲しやすくなります。

2.口数が少ない人

会話が少ない人は、舌や口輪筋を動かす機会が減ります。筋肉は使わなければ衰えるため、飲み込みに必要な力も弱まってしまいます。

3.柔らかいものばかり食べる人

噛む力が必要ない食事ばかりだと、咀嚼や嚥下の筋肉が鍛えられず、飲み込む力が低下します。

4.姿勢が悪い人

猫背やうつむき姿勢では、飲み込みの動作がスムーズに行われません。特に首が前に出ていると、喉の筋肉がうまく働きにくくなります。

5.表情が乏しい人

笑ったり喋ったりする習慣が少ない人は、表情筋全体が弱まりやすく、間接的に飲み込みにも影響します。

誤飲・誤嚥の対策

表情筋研究家としての立場から、日常生活の中で口周りの筋肉をしっかり働かせる方法をいくつか提案します。

1. 口輪筋を鍛える

口輪筋は、食べ物を口の中で保持する「ふた」の役割を果たします。これにより口を閉じる力が戻り、食べ物をこぼさず保持できるようになります。

2. 舌筋を鍛える

舌は飲み込みの主役です。後方へしっかり押し出す動きが重要になります。舌を自在に動かせるようになると、食べ物を喉へスムーズに送る力が高まります。

3. 噛む習慣を意識する

柔らかいものばかり食べていると筋肉が衰えます。適度に噛む必要のある食材を取り入れることで、咀嚼筋や口周りの筋肉が自然に鍛えられます。

4. 表情を増やす

笑顔や会話は、口輪筋や舌筋を自然に動かす最高のトレーニングです。人と話す機会を意識して増やすだけでも、口周りの筋肉は驚くほど活性化します。

5. 歌う・話す機会を増やす

歌うことや声を出して話すことは、呼吸・口輪筋・舌筋を同時に使うため、とても効果的なトレーニングになります。特に歌は声を響かせる過程で口を大きく開け、舌をしっかり動かすため、誤嚥予防にも役立ちます。

「口輪筋プッシュ」で口輪筋と舌筋を同時に鍛えよう

誤飲・誤嚥を防ぐには、口輪筋と舌筋の両方をしっかり働かせることが大切です。そこで日常生活の中でも取り入れやすいトレーニングとしておすすめなのが「口輪筋プッシュ」です。

① 舌を内側にセット
口をすぼめます。右頬の内側から舌でほうれい線を、3〜5回上下になぞります。
② 反対
反対も同様に行います。
③ 繰り返し
①〜②を1セットとして、これを3〜5セット行います。

舌を動かす際に、口が緩んで開いてしまわないように注意してください。
「お風呂に入ったときは口輪筋プッシュで舌を動かす」など、日常の習慣と組み合わせると続けやすくなります。

口周りを鍛えることで得られる健康効果

口輪筋や舌を意識的に動かす習慣は、誤飲・誤嚥の予防だけでなく、健康全般にもうれしい効果をもたらします。

1.唾液分泌が促され、免疫力アップ

舌や口周りをしっかり動かすと唾液腺が刺激され、自然と唾液の分泌量が増えます。唾液には消化を助ける酵素だけでなく、口内の細菌を抑える抗菌作用やウイルスの侵入を防ぐ働きがあり、免疫力アップにもつながります。口の乾きが減ることで虫歯や歯周病の予防にも効果的です。

2.声が通りやすくなる

舌や口輪筋がしっかり動くと発声がスムーズになり、声の響きがクリアになります。話す声に力が出て、会話や歌の場面でも自信を持って声を届けられるようになります。高齢の方に多い「声がかすれる」「聞き取りにくい」といった悩みも、口周りの筋肉を鍛えることで改善が期待できます。

3.食事が楽しくなる

舌や口輪筋がよく働くことで咀嚼や嚥下がスムーズになり、食事を安心して楽しめます。誤嚥を防ぐだけでなく、「食べたいものを美味しく食べられる」こと自体が生活の質を高め、心の健康にもつながります。

4.美容への副次的効果も

口周りを動かすことで血流が改善し、唇の色が明るくなったり、口元が引き締まるなど、美容面でもうれしい変化が期待できます。

自分の力で「飲み込む力」を育てていこう

誤飲・誤嚥は「年齢だから仕方ない」と片づけられがちですが、実際には日常の習慣や筋肉の使い方に大きく左右されます。口輪筋や舌をしっかり働かせることができれば、食べ物を正しいルートで飲み込みやすくなり、誤飲・誤嚥は予防できます。

小さな表情筋ケアが、健康を守る大きな力になりますよ!

そのために大切なのは「毎日の暮らしの中で口を意識して使うこと」。特別な道具や場所を用意しなくても、普段の生活にちょっとした工夫を取り入れるだけでトレーニングになります。

普段の生活でのトレーニング

  • 食事のときは、よく噛んで舌をしっかり動かす
  • 会話の時間を意識的に増やす
  • 入浴中や散歩中に「口輪筋プッシュ」で舌を動かす
  • 好きな歌を口ずさんで、口周りの筋肉を鍛える

こうした習慣を続けていくうちに、口周りの筋肉は自然に強くなり、飲み込む力だけでなく唾液の分泌や声の通りといった健康的な効果も得られます。「食べたいものを安心して食べられる」「話したいことをしっかり伝えられる」という日常の喜びは、心の健康にもつながっていくはずです。

誤飲・誤嚥は、意外にも自分の力で改善できることがたくさんあります。小さな習慣を大切にしていくことで、食事も会話もより楽しく、安心して過ごせる毎日へとつながります。

MYメソッドアカデミー

顔の学校「MYメソッドアカデミー」では、口輪筋や舌筋を含む口周りの正しい動かし方を専門家がわかりやすく指導しています。自己流では難しいポイントも、プロの視点でしっかりサポートしますので、無理なく続けながら効果を実感していただけます。

健康を守ることはもちろん、表情までいきいきと変わるトレーニングを、一緒に始めてみませんか?

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