間々田 佳子

「自分の声がこもって聞き取りにくい」「話していると何度も聞き返される」「言葉がもたついて思うように出てこない」——こうした悩みを抱えている人は意外と多くいます。これらは総じて「滑舌が悪い」と表現されますが、その正体を掘り下げると、単なる発音の問題ではなく、舌や口周りの筋肉の使い方に大きく関係していることがわかります。

私は表情筋研究家として顔の筋肉と声・発音の関係を研究してきました。
滑舌の悩みは年齢や性格だけでなく、顔の筋肉の状態や日常の習慣にも深く影響を受けています。

今回は「滑舌が悪い」とはどういう状態なのか、なぜそうなるのか、そして改善のための具体的な方法について解説していきます。

滑舌が悪いとはどういう状態?

滑舌が悪いというのは、単に声が小さいというだけではありません。発音するために必要な舌の動きや、唇・頬・口輪筋のコントロールがうまくいかず、言葉が正確に響かない状態を指します。

言葉は母音(あ・い・う・え・お)と子音(か行、さ行、た行など)の組み合わせで成り立っていますが、これらは舌や唇の微細な動きによって調整されています。舌がスムーズに動かないと、子音が濁りやすくなり、「さしすせそ」が「しゃししゅしぇしょ」に近くなる、「ら行」が「だ行」に聞こえる、などの現象が起きます。

また、舌の動きが制限されると声自体の響きも悪くなり、こもった声や平坦な話し方になりやすいのも特徴です。

なぜ滑舌は悪くなるのか?

滑舌の悪さは、生まれつきの構造だけでなく、筋肉の使い方と日常の習慣に大きく左右されます。主な原因を見てみましょう。

1. 舌筋の衰え

舌は「筋肉のかたまり」で、顎舌骨筋(がくぜっこつきん)、舌骨筋(ぜっこつきん)、オトガイ舌筋(ぜっきん)など複数の筋肉で構成されています。話す、食べる、飲むといった動きで日常的に使われますが、発音のために繊細に動かす機会は意外と少なく、意識的に動かさなければ筋肉はすぐに衰えてしまいます。

特に現代人は会話時間が減り、スマホやSNSでのやり取りが中心になることで、「声を出す」ことそのものが少なくなっています。この舌筋の運動不足が、滑舌を悪くする大きな要因です。

2. 表情筋のこわばり

口周りの筋肉(口輪筋)、頬の筋肉(大頬骨筋・小頬骨筋)、舌を支える顎周りの筋肉が硬くなると、舌の動きも制限されます。食いしばりや緊張で口元が固まっている人は、舌が自由に動けず、滑舌が悪くなりやすい傾向があります。

3. 呼吸の浅さ

滑舌と呼吸は密接に関わっています。浅い胸式呼吸ばかりしていると、声が安定せず、発音も弱々しくなります。

腹式呼吸で空気をしっかり使える人ほど、発声が安定し、舌や唇の動きがスムーズになります。

4. 精神的な要因

「また噛んだらどうしよう」という不安や緊張は、舌の動きをさらにぎこちなくします。これは、あがり症や人前で話すことが苦手な人に多いパターンです。

実際、心と舌の動きは自律神経を通じて密接につながっており、リラックスしているときほど舌はスムーズに動きます。

滑舌が悪くなりやすい人の特徴

無表情で過ごす時間が多い

顔や口周りの筋肉は、日常的に動かすことで血流が促進され、しなやかさが保たれます。無表情でいる時間が長いと筋肉が運動不足になり、舌や口輪筋の動きも制限されやすくなります。結果として発音がこもりやすく、滑舌の悪さにつながります。

会話量が少ない(声を出す時間が短い)

舌は筋肉のかたまりであり、使わなければ衰える性質があります。現代ではSNSやメッセージでのやり取りが多く、声を出す機会自体が減っています。

話す時間が少ないと舌筋の可動域が小さくなり、発音が不明瞭になりやすくなります。

食いしばりや顎の緊張が強い

無意識の食いしばりは、顎から口周りの筋肉を固めてしまいます。顎が硬くなると舌の自由な動きも制限され、音を滑らかに出せなくなります。特に夜間の食いしばりや歯ぎしりは要注意です。

舌の位置が常に下がっている(上あごに舌がついていない)

舌の正しい位置は、上あごの天井に軽くついている状態です。舌が常に下に落ちていると筋肉が緩み、発音に必要なコントロール力が弱まります。さらに、舌の位置が低いと口の中の共鳴も少なくなり、声がこもりやすくなります。

呼吸が浅く、早口になりやすい

浅い胸式呼吸は声量を小さくし、舌や唇を動かす余裕を奪います。息をしっかりコントロールできないと、言葉が急ぎ足になり、発音が不明瞭になりがちです。腹式呼吸を取り入れることで、声に安定感が生まれ、舌や口の動きにも余裕ができます。

これらの特徴はすべて「筋肉の使い方」と「舌のポジション」に共通する課題です。

つまり、意識してトレーニングすることで改善の余地が十分にあるということ。滑舌は才能や年齢ではなく、日常の使い方で変わっていきます。

滑舌改善のカギは「舌筋を鍛えること」

滑舌の悩みを解消するためにまずやるべきは、舌筋を意識的に動かして鍛えることです。舌は使わなければ衰えますが、逆にいえば動かすほど機能が回復します。

舌筋とは、舌を動かすための筋肉群の総称で、実は非常に複雑な構造を持っています。舌の内部にある「内舌筋」と、舌の外側から動きをサポートする「外舌筋」に分けられ、それぞれが連動して舌を前後・上下・左右、さらには丸める・平らにするなど多彩な動きを可能にしています。

この舌筋がしっかり働くことで、発音に必要な細かな舌の動きがスムーズになり、声が明瞭になります。逆に舌筋が衰えると、舌の可動域が狭くなり、音がこもる、言葉が聞き取りにくいといった滑舌の悩みが出やすくなります。

また、舌は口腔内の血流やリンパの巡りにも関与しており、舌筋を動かすことで口周り全体の巡りが良くなり、顔全体の表情筋にも好影響を与えます。つまり、舌筋は「発音」「表情」「健康」の土台を支える重要な筋肉なのです。

このように、滑舌改善のためには舌筋を意識的に動かすことが欠かせません。次に紹介するトレーニングでは、この舌筋をしっかりと鍛え、機能を目覚めさせていきます。

「口輪筋プッシュ」で舌筋強化

① 舌を内側にセット
口をすぼめます。右頬の内側から舌でほうれい線を、3〜5回上下になぞります。
② 反対
反対も同様に行います。
③ 繰り返し
①〜②を1セットとして、これを3〜5セット行います。

舌を動かす際に口が緩んで開かないように注意しましょう。

話す・歌う時間をつくって舌も脳も元気に

「話していないだけで、うまく話せなくなる」というケースは実はとても多いのです。

舌は筋肉であり、動かさなければすぐに可動域が狭くなり、滑舌に必要な繊細な動きができなくなります。つまり、舌筋は日常的に使い続けることで柔軟性と反応の速さを保てるのです。

そのため、先ほど紹介したようなトレーニングに加えて、日常生活の中で意識的に声を出す時間を持つことはとても重要です。特におすすめなのが、以下のような習慣です。

本を朗読する

文字を正確に声に出すことで、舌筋・口輪筋・頬筋など発音に関わる筋肉をまんべんなく動かすことができます。さらに文章のリズムに合わせて声を出すことで、発音の安定性と舌のコントロール力が養われます。

好きな歌を歌う時間を設ける

歌は発音だけでなく、呼吸・声の響き・口の開き方を全体的に鍛えられる絶好のトレーニングです。特に音程の上げ下げに合わせて舌の位置を変える動きは、自然に舌筋の可動域を広げ、滑舌の改善に直結します。

鏡の前で表情をつけながら話す練習をする

鏡を見ながら発音することで、口の動きや舌の位置を目で確認しながら調整できます。さらに表情筋と舌筋を同時に動かすことで、「聞き取りやすい声」と「表情豊かな話し方」を同時に育てることができます。

朗読や歌は単なる発声練習ではなく、「舌を動かし、呼吸を整え、表情を作る」という総合的なトレーニングです。舌筋をしっかり動かすことで滑舌に必要な筋肉が活性化されるだけでなく、音読や歌詞を声に出すプロセスは脳にも刺激を与えます。

声に出しながら文字を追い、リズムを取る動作は、舌や口の動きと同時に脳の言語中枢や運動野を活性化させる「脳トレ」の効果も期待できます。毎日数分でも続けることで、舌筋の反応が良くなり、滑舌が改善するだけでなく、頭の回転や表現力の向上にもつながります。

まずは動かすことから。滑舌改善は今日からできる

滑舌は「センス」や「性格」で決まるものではなく、顔と舌の筋肉の状態で大きく左右されます。つまり、年齢を重ねても舌筋や表情筋を意識的に動かすことで、誰でも改善していくことができるのです。私自身もかつては人前で話すことに自信が持てず、モゴモゴと言葉に詰まってしまうのが悩みでしたが、舌筋トレーニングと顔の筋肉をほぐす習慣を続けることで、声や話し方が明瞭になり、気持ちまで前向きに変わっていきました。

完璧に話そうとしなくていいんです。まずは“動かす”ことから始めましょう

滑舌が悪いと感じている方ほど、「話さない方が恥ずかしくない」と無意識に声を出すことを避けてしまうケースがあります。しかし、それは悪循環。

まずは完璧でなくてもいいので、顔や舌を大きく動かしてみることから始めてください。動かすほどに声はクリアになり、言葉はスムーズに、そして不思議と気持ちまで軽く明るくなっていきます。

MYメソッドアカデミー

顔の学校「MYメソッドアカデミー」では、舌筋を含めた口周りや表情筋全体を正しく動かすためのプログラムを用意しています。滑舌改善に特化したトレーニングもあり、「声がはっきり出るようになった」「人前で話すのが怖くなくなった」と多くの方から実感の声をいただいています。

顔と舌は、あなたの声を奏でる“楽器”です。その楽器を正しく使い、鍛えていけば、滑舌は必ず変わります。今日からまず一つ、舌を思い切り動かすことから始めて、自分の声に新しい可能性を与えてみませんか?

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